グレイのパラドックス(Gray's Paradox)は、イギリスの動物学者James Grayが1936年に提唱したもの。イルカは、その筋肉の量から推測される能力以上に早く泳ぐことができる、その矛盾をグレイのパラドックスという。
北京オリンピックで北島康介は、100m 58秒91の世界新記録で金メダルをとった。この速度は時速にすると毎時6.1km。一方、イルカは、早いものだと時速50kmで、人の8倍。一方、体重は200kgで、人の3倍。筋肉の構造は違わないのに、これは生物学的に矛盾しているというわけだ。パラドックスは今も解けていないという。
謎を解く努力は続けられている。2000年のシドニーオリンピックで話題になった水着の新素材に応用された発見もそのひとつだ。イルカの肌は鮫肌と同じくざらざらしており、リブレットと呼ばれる小さな突起が抵抗を軽減する。水の密度は空気の800倍もあり、水中で泳ぐと体に沿って小さな渦(乱流渦)が発生し、推進を妨げる抵抗となる。弾力性に富むイルカの皮膚はリブレット構造により、抵抗を抑えている。
さらに最近の研究では、イルカの皮膚が泳いでいるうちに薄片となって剥がれ落ちていることに注目した説もある。おおよそ2時間で脱ぎ変わる皮膚が、乱流渦の抵抗を抑えているという。