厚生労働省研究班は、解熱鎮痛剤のアスピリンをのむと、大腸ポリープの再発リスクが低下することを臨床試験で明らかにした。ポリープは進行して大腸がんになる可能性が高いとされる。胃がんの次に患者が多い大腸がんの予防につながると期待される。
アスピリンの歴史は面白い。もともと、紀元前古代ギリシャで、ヤナギの樹皮や葉を煎じたものが発熱や鎮痛のために使われていた。日本でも、「柳で作ったようじ(楊枝)を使うと歯がうずかない」ということが知られていた。(ちなみに今は、爪楊枝は柔らかい白樺を材料にしている)
話を戻すと、19世紀にそのヤナギの木から鎮痛作用成分、サリチル酸が分離された。しかし、サリチル酸には強い胃腸障害が出るという副作用があった。1897年、ドイツ、バイエル社のフェリックス・ホフマンは、アセチル化で修飾して副作用の少ないアセチルサリチル酸を合成した。
アセチルサリチル酸は世界で初めて人工合成された医薬品となった。1899年には、バイエル社によって「アスピリン」の商標が登録され発売された。
アセチルサリチル酸は体内での伝達物質(プロスタグランジン)の合成を抑制し、痛み、発熱、炎症に効果を発揮する。プロスタグランジンを発見し、アセチルサリチル酸の抗炎症作用のメカニズムを解明したのジョン・ベイン、ベンクト・サムエルソン、スーネ・ベルクストロームの3人は、1982年にノーベル医学生理学賞を受賞した。
アセチルサリチル酸は、上記の鎮痛、解熱、抗炎症効果だけでない。血小板の凝集を抑制して血栓の形成を妨げることから、脳梗塞や虚血性心疾患を予防する効果もある。
アスピリンは、今回の発表のように、ポリープ抑制や抗がん作用もあり、多くのメリットを持つので、常用したいところ。副作用として胃や消化管の障害がある。ただ、今の薬は、胃を保護するための薬を配合しており、この辺は人の体質によるかも。
水痘やインフルエンザに感染した小児が、アスピリンを使用するとライ症候群を引き起こすことがあり、肝障害を伴った重篤な脳障害で死に至る危険がある。イギリスでは原則として、12歳以下の小児にはアスピリンを使わないことになっている。